株式会社ispaceの2026年3月期第1四半期累計期間の決算は、売上高が前年同期比83.4%増の11.6億円と大幅に増加したものの、営業損失は22.4億円、経常損失は28.8億円、純損失は28.8億円と、いずれも前年同期から損失が拡大した。特に経常損失と純損失は前年同期の約1.8倍に悪化している。これは、多額の先行研究開発投資と長期の開発期間を要する事業特性による継続的な営業損失と営業キャッシュ・フローのマイナスが主な要因であり、2025年6月末時点において純資産が前期末から32.3億円減少し37.8億円となり、継続企業の前提に重要な疑義が生じている状況である。
事業面では、ミッション2の月面着陸は失敗したものの、データサービス売上として23百万円を計上した。また、日本政府の「宇宙戦略基金」による支援対象に採択され、ミッション3およびミッション4の開発も順調に進捗している。資金調達活動も活発で、当第1四半期連結会計期間においても155億円の融資契約を締結した。
総じて、売上高の成長はポジティブな要素であるものの、損失の拡大と継続企業の前提に関する疑義が解消されていない点は投資家にとってネガティブな要素が多い決算発表であった。
2026年3月期第1四半期累計期間の全社業績は、売上高が前年同期比83.4%増と大幅に増加したが、多額の研究開発投資が継続しているため、営業損失、経常損失、純損失はいずれも拡大した。特に経常損失と純損失は前年同期の約1.8倍に悪化しており、事業の成長フェーズにおける投資先行型経営の状況が続いている。
指標 | 2026年3月期1Q(累計) | 2025年3月期1Q(累計) | 前年同期比 |
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売上高 | 11.7億円 | 6.4億円 | 83.4% |
営業利益 | △22.4億円 | △23.0億円 | 2.2% |
経常利益 | △28.8億円 | △15.8億円 | △82.7% |
純利益 | △28.8億円 | △15.8億円 | △82.3% |
株式会社ispaceは、日本政府の「宇宙戦略基金」による支援を受けている。具体的には、「月面の水資源探査技術(センシング技術)の開発・実証」において中核的連携機関として採択され、支援規模は64億円である。また、第2期の公募テーマである「月極域における高精度着陸技術」(支援規模200億円)についても応札に向けて準備を進めている。
ミッション2では、合計5件・総額16百万米ドルのペイロード契約を締結していたが、着陸未達により1.5百万米ドルは受領できなかった。しかし、14.5百万米ドルは売上として計上された。
資金調達活動も積極的に行っており、2024年3月期には複数行から総額75億円、2025年3月期には借換を含め総額179億円の融資契約を締結した。当第1四半期連結会計期間においても、新たに155億円の融資契約を締結している。さらに、第三者割当増資として、2024年10月にはCVI Investments, Inc.との間でEquity Program Agreementを締結し、新株式および新株予約権を発行している。これらの資金調達は、多額の先行研究開発投資を支え、継続企業の前提に関する疑義を解消するための重要な取り組みである。
2026年3月期の全社業績予想は、2025年5月9日に公表された通期連結業績予想から修正はなく、据え置きである。第1四半期累計期間の実績に基づくと、売上高は通期予想に対して18.8%の進捗率を示しているが、各利益項目は依然として大幅な赤字であり、通期予想に対する進捗率はマイナスとなっている。
指標 | 通期予想 | 進捗率(1Q) |
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売上高 | 62.0億円 | 18.8% |
営業利益 | △115.0億円 | 19.5% |
経常利益 | △83.0億円 | 34.7% |
純利益 | △83.0億円 | 34.7% |
当第1四半期連結会計期間末における総資産は389.6億円となり、前連結会計年度末から117.8億円増加した。これは主に、現金及び預金が133.4億円増加したことによる。流動資産は307.4億円で、前連結会計年度末から116.7億円増加した。固定資産は82.2億円で、長期前渡金の増加により1.0億円増加した。
負債の部では、流動負債が39.0億円となり、短期借入金の増加により4,100万円増加した。固定負債は312.9億円で、長期借入金が149.9億円増加したことが主な要因である。
純資産は37.8億円となり、前連結会計年度末から32.3億円減少した。これは主に、利益剰余金が28.8億円減少したことによる。
なお、当第1四半期連結累計期間に係る四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成されていない。
配当
株式会社ispaceは、人類の生活圏を宇宙に広げ、持続的な世界を実現するという壮大なビジョンを掲げ、月面開発の事業化に取り組む次世代の民間宇宙企業である。しかし、当第1四半期決算では、売上高が大幅に増加した一方で、多額の先行研究開発投資と長期の開発期間を要する事業特性から、営業損失、経常損失、純損失がいずれも拡大し、継続企業の前提に重要な疑義が生じている状況が示された。これは投資家にとってネガティブな要素であり、今後の企業価値評価において、この疑義の解消が最重要課題となる。
同社は、この状況を解消するために、以下の対応策を講じている。まず、研究開発の推進として、米国での初の打ち上げとなるミッション3および日本で商業用の新たなモデルを使用するミッション4の開発を着実に進め、打ち上げ機会の確保、開発スケジュール、コスト、品質の厳格な管理を行う。ミッション2の失敗原因がレーザーレンジファインダーのハードウェア異常と特定されたことから、後続ミッションでの選定や試験計画の見直し、外部専門家との連携強化が不可欠であり、これらの改善が着実に実行されるかが投資家の信頼回復に直結する。
次に、顧客の開拓として、ミッション3からミッション6までの潜在的受注を確認しつつ、中長期的に持続可能な顧客市場を開拓する。事業収益の安定化には、開発中のランダーおよびローバーの商業化と、新たな顧客獲得が不可欠である。
また、人材の確保と内部統制の構築も重要課題である。高度な専門性と能力を備えた人材の雇用と、急速に拡大する組織における能力発揮環境の整備、そして業務プロセス、財務・経理体制、労務管理、子会社管理、セキュリティ管理の整備は、持続的な成長を支える基盤となる。
最も重要なのは、中長期的な成長資金の確保である。無担保転換社債型新株予約権付社債の発行、第三者割当増資、金融機関からの借入、クラウドファンディング、公募増資など、多様な手段による機動的な資金調達の検討が継続されている。当第1四半期においても155億円の融資契約を締結しており、資金調達能力は一定程度評価できるものの、継続的な損失拡大を考慮すると、さらなる資金調達の必要性が生じる可能性が高い。また、保険活用によるリスク低減も財務安全性確保の一環として認識されており、ミッション3以降での保険利用の検討も進められている。
投資家目線では、売上高の成長はポジティブな兆候であるが、継続企業の前提に関する疑義が解消されていない現状は大きな懸念材料である。今後の資金調達の進捗、ミッション3以降の成功、そしてこれらの対応策が着実に実行され、安定的な事業収益が創出されるかどうかが、同社の企業価値を大きく左右する。特に、ミッション2の失敗からの学びを活かし、ミッション3・4の開発が計画通りに進捗し、成功裏に打ち上げられることが、投資家の信頼回復と企業価値向上に向けた重要なマイルストーンとなる。
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