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デンソー

決算レポート

  • 2025年3月期 第2四半期決算まとめ

    概要とサマリー

    株式会社デンソーの2025年3月期第2四半期決算は、売上収益が前年同期比1.1%減の3兆4,749億円となったものの、営業利益は同18.6%増の2,512億円となり、減収増益で着地した。円安の進行や合理化努力が利益を押し上げた一方、日本顧客の稼働停止影響に伴う車両減産やアジア地域での車両販売不振が響き、売上は前年同期を下回った。利益面では計画を上回る進捗を見せたが、売上高の減少を鑑み、通期業績予想は売上収益・各利益項目ともに下方修正された。

    株主還元については、第2四半期末配当を1株当たり32.00円とすることを発表。期末配当予想も32.00円とし、年間配当予想は64.00円となる。さらに、2024年10月31日開催の取締役会において、自己株式の取得および消却を行うことを決議しており、株主還元への積極的な姿勢が示された。

    総じて、外部環境の悪化により売上は伸び悩んだものの、為替効果とコスト管理によって利益を確保した決算であった。しかし、通期見通しの下方修正は今後の事業環境の不透明さを反映しており、予断を許さない状況である。


    全社業績動向

    2025年3月期第2四半期累計の連結業績は、売上収益が3兆4,749億円(前年同期比1.1%減)となった。これは、円安による増収効果があったものの、日本国内の主要顧客における稼働停止に伴う車両減産や、アジア市場での車両販売不振が影響したことによる。

    利益面では、操業度差損があったものの、円安の進行や継続的な合理化努力が奏功し、営業利益は2,512億円(同18.6%増)と大幅な増益を達成した。税引前中間利益は2,817億円(同13.8%増)、親会社の所有者に帰属する中間利益は1,908億円(同13.0%増)となり、各利益段階で前年同期を上回る結果となった。

    指標2025年3月期 2Q(累計)2024年3月期 2Q(累計)前年同期比
    売上収益34,749億円35,135億円-1.1%
    売上総利益4,996億円5,020億円-0.5%
    営業利益2,512億円2,118億円+18.6%
    税引前利益2,817億円2,477億円+13.8%
    純利益1,908億円1,689億円+13.0%

    事業セグメント別の業績やKPI、事業の動向

    日本事業

    当第2四半期累計の外部顧客への売上収益は1兆3,777億円で、全社売上収益の約39.6%を占める。 日本セグメントの売上収益は、主要顧客の稼働停止影響による車両減産が響き、2兆305億円(前年同期比1.5%減)と減収になった。一方で、営業利益は操業度差損があったものの、合理化努力等が寄与し、1,166億円(前年同期比36.8%増)と大幅な増益を達成した。国内市場の生産動向に業績が左右される構造であるが、コストコントロールによって収益性を改善させている状況がうかがえる。

    北米事業

    当第2四半期累計の外部顧客への売上収益は9,167億円で、全社売上収益の約26.4%を占める。 北米セグメントの売上収益は、円安の進行が大きく貢献し、9,243億円(前年同期比7.9%増)と増収を確保した。営業利益も、操業度差損はあったものの、合理化努力により365億円(前年同期比157.1%増)と、前年同期から倍増以上の大幅な増益となった。為替の追い風を確実に利益に繋げ、収益性が大きく改善している。

    欧州事業

    当第2四半期累計の外部顧客への売上収益は3,291億円で、全社売上収益の約9.5%を占める。 欧州セグメントでは、車両販売不振の影響を受け、売上収益は3,657億円(前年同期比1.9%減)となった。営業利益は、合理化努力を進めたものの、操業度差損の影響が大きく、59億円(前年同期比57.7%減)と大幅な減益に見舞われた。厳しい市場環境が収益を圧迫しており、今後の回復が課題となる。

    アジア事業

    当第2四半期累計の外部顧客への売上収益は7,929億円で、全社売上収益の約22.8%を占める。 アジアセグメントの売上収益は、欧州同様に車両販売不振が主因となり、9,379億円(前年同期比3.7%減)と減収になった。営業利益も、合理化努力はあったものの、操業度差損により767億円(前年同期比13.1%減)と二桁の減益となった。特に成長市場と期待されるアジアでの販売不振は、今後の業績回復に向けた重要な課題である。


    事業/資本提携・M&A等の動向

    当第2四半期累計期間において、大規模な事業/資本提携やM&Aの実施に関する開示は確認されなかった。しかし、同社は「環境」「安心」「共感」の理念のもと、クルマで培った強みを活かし、社会課題解決に貢献する方針を掲げている。この方針に基づき、既存事業の強化や新規領域への進出を目的とした戦略的な提携やM&Aは、継続的に検討されているものと推察される。当期間のキャッシュ・フロー計算書においては、「子会社又はその他の事業の売却による収支」として32億円の収入が計上されており、事業ポートフォリオの最適化に向けた小規模な動きがあったことが確認できる。


    通期業績予想と進捗率

    2025年3月期の通期連結業績予想について、2024年10月31日付で下方修正を発表した。第2四半期までの実績および下期の見通しにおいて、車両販売不振に伴う操業度差損等を反映した結果、売上収益、各利益項目ともに期初計画から引き下げられた。

    第2四半期累計実績の通期業績予想に対する進捗率は、売上収益が49.5%である一方、営業利益は45.7%となっている。

    指標通期予想進捗率(2Q)
    売上収益70,200億円49.5%
    営業利益5,500億円45.7%
    税引前利益6,090億円46.3%
    純利益4,370億円43.7%

    財務状態とキャッシュフロー

    当第2四半期連結会計期間末の総資産は、前連結会計年度末に比べ9,590億円減少し、8兆1,343億円となった。これは主に、その他の金融資産が減少したことによる。負債合計は、繰延税金負債の減少などにより4,439億円減少し、2兆9,030億円となった。資本合計は、有価証券の評価時価の下落等により5,152億円減少し、5兆2,314億円となった。結果として、親会社所有者帰属持分比率は61.8%となった。

    キャッシュ・フローの状況については、営業活動によるキャッシュ・フローは3,929億円の収入となった。投資活動によるキャッシュ・フローは、資本性金融商品の売却収入(3,916億円)などにより、2,073億円の収入(前年同期は2,110億円の支出)となった。財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払い(873億円)や借入金の返済(1,344億円)などにより、2,632億円の支出となった。これらの結果、現金及び現金同等物の期末残高は1兆1,064億円となった。


    株主還元

    株主還元に関して、以下の通り発表および実施している。

    • 配当:

      • 2025年3月期の第2四半期末配当金として、1株当たり32.00円の配当を実施することを決定した。
      • 期末配当予想も1株当たり32.00円としており、これにより年間配当金は合計64.00円となる見込みである。
      • なお、2023年10月1日付で普通株式1株につき4株の割合で株式分割を行っている。
    • 自己株式取得:

      • 2024年10月31日開催の取締役会において、会社法第165条第3項の規定により読み替えて適用される同法第156条第1項及び定款の規定に基づき、自己株式取得に係る事項を決議した。取得総数や総額、期間などの詳細は別途開示される。
    • 自己株式の消却:

      • 2024年10月31日開催の取締役会において、会社法第178条の規定に基づき、自己株式の消却を行うことを決議した。消却する株式数等の詳細は別途開示される。
    • 株主優待:

      • 本資料において、株主優待制度に関する記載は確認されなかった。

    今後の見通し

    株式会社デンソーは、通期の業績予想を下方修正しており、今後の事業環境に対する慎重な見方を示している。修正の主な要因は、世界的な車両販売の不振に伴う操業度差損であり、特にこれまで成長を牽引してきたアジア市場の減速が懸念材料である。為替レートの前提は1ドル145円、1ユーロ155円と据え置かれており、足元の為替水準が続けば利益面での上振れ余地は残るものの、販売台数の回復が最大の焦点となる。

    短期的には、下方修正された通期業績予想(売上収益7兆200億円、営業利益5,500億円)の達成が目標となる。同社はこれまでも合理化努力によって厳しい環境下で利益を確保してきた実績があり、今後も継続的なコスト管理と生産性向上が収益性を下支えすると期待される。しかし、地政学リスクや世界経済のインフレ動向、各国の金融政策など、外部環境の不確実性は依然として高く、自動車市場の需要動向を注視する必要がある。

    中長期的には、「環境」「安心」「共感」という理念のもと、電動化、先進安全・自動運転、コネクテッドといったメガトレンドへの対応が企業価値向上の鍵を握る。同社がクルマで培ってきた技術力を、エネルギーマネジメントや物流効率化といった社会課題解決へと展開していく方針は、事業領域の拡大と新たな収益源の創出に繋がる可能性がある。今回発表された自己株式の取得・消却は、資本効率の改善と株主還元の強化に対する強い意志の表れであり、市場からの評価を高める要因となりうる。事業環境の逆風に直面しながらも、将来に向けた戦略投資と株主還元のバランスをどう取っていくかが、持続的な企業価値創造に向けた重要な課題となるだろう。